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高松高等裁判所 昭和32年(ネ)210号 判決 1958年7月10日

控訴人 株式会社新居浜金属

被控訴人 大西正雄

補助参加人 八木竹夫

当事者参加人 株式会社亀井商店

主文

本件控訴を棄却する

当事者参加人の本訴請求を棄却する

第二審における訴訟費用のうち控訴人と被控訴人との間に生じた部分は控訴人の負担とし、補助参加によつて生じた部分は補助参加人の負担とし、当事者参加によつて生じた部分は当事者参加人の負担とする。

事実

控訴人株式会社新居浜金属(以下単に控訴会社と称する)法定代理人は原判決を取り消す被控訴人の請求を棄却するとの判決並に当事者参加人の請求に対し参加請求趣旨通りの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決並に当事者参加人の請求に対し請求棄却の判決を求め、当事者参加人株式会社亀井商店(以下単に参加会社と称する)法定代理人は原判決を取り消す控訴人、被控訴人及び当事者参加人の間において原判決添付目録記載の物件(以下本件土地家屋と称する)が控訴人の所有に属することを確認する被控訴人は控訴人株式会社新居浜金属の代表者森忠市個人との間の昭和二九年五月二七日付贈与証書に基いて右物件につき松山地方法務局新居浜出張所昭和二九年九月八日受附第二、〇一六号を以て同人のためになされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ控訴人は右物件に対し当事者参加人の為に債権額金三十八万七千三百七十円、弁済期昭和三一年三月二二日但し利息の定なき抵当権設定登記手続をせよ参加によつて生じた訴訟費用は控訴人及び被控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方並に補助参加人及び当事者参加人の事実上の主張は

被控訴代理人において

(一)(1)  被控訴人が本件土地家屋の贈与を受けるに至つた経維は、昭和二九年春ごろ控訴会社はその代表者個人所有の本件土地家屋につき訴外株式会社伊予銀行より抵当権に因る競売の申立を受け、若しこれが実行ある場合は同銀行に対する債務額金百十万円以下で競落せられる虞があつたが、控訴会社は他にも多額の負債を有しその処置に窮し被控訴人に懇請するので、被控訴人は同情の余り該債務額でこれを譲受けることとしたが、売買に依る場合は登録税その他多額の税負担を招来する虞があるため、被控訴人において控訴会社の右銀行に対する債務を全部立替支払をし、その立替金債務の代物弁済として前記森忠市より控訴会社に贈与された本件土地家屋を贈与の形式で譲受ける旨を契約したのである。

しかるに右契約成立当時において被控訴人は控訴会社に対し、自動車部分品等の商品売掛代金債権及び立替並に求償債権等種々の債権を有したため、これら債権額を合算したものを前記銀行に対する立替金百十万円に加えて総計二百六十四万五千八百九十七円と算定した上、控訴会社の懇請を容れ向う二ケ年内に該金額を以て本件土地家屋を買戻すことができる旨の特約を附加したのである。そして右契約に基いて被控訴人は右立替払をなした上控訴会社代表者兼個人森忠市との合意の下に森忠市より直接被控訴人名義に本件土地家屋の所有権移転登記を受けたものである。そうして右契約の際同時に爾後控訴人に対し本件家屋を敷地と共にその賃料は一ケ月金一万五千円と定め二ケ年の期限で貸与したことは原審で主張した通りであるが、控訴会社において該賃料債務を履行しないため該賃貸借契約を解除したものである。

なお賃貸借契約解除と同時に買戻契約も解除したが、この買戻契約の解除と右賃貸借契約の解除とは事理上直接の関係はない。

(2)  控訴人は右賃貸借契約解除のための履行催告に附した期間は短かきに失し法律に定める相当期間に該当しないと云うのであるが、本件程度の賃料の支払に付いて右催告期間が短かきに過ぎるものでないことは社会通念上明かである。況んや被控訴人は本件解除以前にも同様債務不履行を理由として解除を為したことがあつたが、向後誠実に履行することを約してこれを宥恕したような事情にある。

(3)  更に本件家屋明渡請求の原因を次の通り追加する

控訴会社に対する本件物件の賃貸借期限並に負債支払期限は共に昭和二九年五月一日より向う二ケ年であるから、同三一年四月三〇日を以て該期間は満了した。

控訴会社はその間負債の支払を一銭も履行せず、且つ本件不動産賃料すら数ケ月履行したにとどまり、爾後履行しないのであるから、いかなる事情ありとしても控訴会社は買戻権を喪失し、且つ期間満了により賃借権を失つた。

(4)  又控訴人は甲第一号証の契約は強迫によるものと主張しているが、被控訴人は不景気の折柄控訴会社のために金銭上多大の迷惑を蒙り、為に父祖伝来の田畑を売却処分せざるを得ない窮地に追込まれながら、前掲のような控訴会社の立場に同情して事を処理した結果、本件契約が成立したのであつて、当時においては控訴会社は感謝の上進んで契約に調印する立場にあつたのであり、強迫行為など全然存しない。なお控訴人が当審において甲第一号証の内容を争わんとするのは自白の取消であり被控訴人においてこれに同意しない。

(5)  本件土地家屋に関する契約は控訴人主張のような譲渡担保契約でないことは前叙の通りであるが、なお家屋の賃貸料の額なども極めて低廉であり総債権額に対する普通銀行利子にすら及ばない点及び控訴会社が契約後数ケ月間この賃料債務の支払を履行している点などから見ても、いわゆる譲渡担保の態容と異るものというべきである。なお本件買戻代金額のうち金百十万円は既に消滅しているものであるところ、買戻代金に付ては民法第五七九条の規定からすればあるいは本件買戻代金額に関する契約部分は無効であるかも知れないが、本件被控訴人の従前の請求は所有権の帰属とは関係なく、単に賃貸人としての賃貸借契約上の権利を主張しているものであるから、買戻に関する事項は本訴請求とは直接関係はない。

(二)  仮りに本件土地家屋に関する契約が譲渡担保契約であるとしても、外部的に所有権移転並にその旨の登記がなされているのみならず、契約後旧所有者は爾後賃借人としてこれを使用し、したがつて賃料の支払を履行した事実があるから、内部的にも完全に所有権の移転ありと云うことができるのであつて、このような契約はたとえそれが譲渡担保契約であるとしても、これに基く賃貸借契約が有効であることは疑問の余地はない。

よつて右賃貸借の解除を原因として本訴物件の明渡を求める。

(三)  仮りに以上の主張が認められないとしても、控訴会社は契約成立の直後たる昭和二九年六月一日より同年一〇月三〇日までの間に新居浜市より学校敷地埋立工事を請負い、此の間五回に亘り合計金二百七十六万円の工事代金を受領しながら所約の百分の二、五五の歩率の金員を支払わない為、被控訴人は昭和三〇年一月二六日着書面で一週間の期限を附してその履行を催告し若し期限内に履行しない場合は控訴会社は債務弁済に付いて期限の利益を失うと同時に本件土地家屋買戻の権利を失う旨通知したが、控訴会社はこれを履行せず、為に同年二月三日を以て債務の履行期が到来し且つ買戻の権利は消滅した。

それ故に本件物件が仮りに譲渡担保物件であるとしても、今日においては控訴会社はこれが買戻の権利を喪失し、被控訴人はこれを評価して自己取得し、又は他に売却処分してその代金を債権の支払に充当することができる訳である。

そして控訴会社がこれを占有する場合は処分するに著しい困難を来すものであるから、処分を容易ならしめるために家屋の明渡を請求することができるものと解せられている。と補陳し、控訴会社法定代理人において

(一)  控訴会社法定代理人は原審において被控訴人主張の賃貸借の事実を認め更に進んで被控訴人主張の本件土地家屋が元控訴会社の所有であつたもので、これを一種の買戻約款附で被控訴人に売り渡した旨の陳述をなしたが、右自白は真実に反し錯誤に出たものであるからこれを取り消す。すなわち控訴会社は訴外株式会社愛媛相互銀行新居浜支店より森忠市個人所有の本件土地家屋に根抵当権を設定して借り受けていた金百十万円支払の方法として被控訴人の希望を容れ、前記物件の所有権を同人に対する贈与の形式でしかもこれが協定価額を金百八十万円とする含みの下に移転し且つこれを条件として被控訴人は昭和二九年六月二三日前記訴外銀行の債務引受をなしたものである。そうして控訴会社の一般債務は金八百万円に達するので、特に被控訴人をして優先弁済を得せしめる目的で、双方合意の上右の措置方法に出たに過ぎない。すなわち控訴会社法定代理人は前記の経緯により一応当事者間における土地家屋賃貸借の成立を認めたが、いわゆる物件の贈与の形式による所有権移転は第三者の請求防止のための措置として為された仮装のものであつて、しかも控訴会社代表者森忠市個人が現在引続き該家屋を占有使用している事実上の関係を以て賃貸借契約ありとするも、もともと該賃貸借契約は被控訴人が自ら契約書を作成して携行し控訴会社を強迫して押印せしめたものであつて、控訴会社は己むを得ずその場のがれに押印したに過ぎないものであつて、右契約は被控訴人の強迫に因る無効のものである。

(二)  前記物件に対する賃貸借契約が仮りに有効に成立したとしても、該賃貸借契約解除の催告期間五日間は短かきに失し、いわゆる相当期間とはいえないから、右解除通知は無効である。

(三)  なお被控訴人が民法上の解除権を強行するのは信義に反し権利濫用となるは勿論、憲法上公共の福祉に反するのみならず、特別法にして且つ強行法たる借地法第二条第一一条借家法第一条の二第三条第六条の規定に反し当然無効である。

(四)  仮りに以上の主張が認められないとしても、本件土地家屋に関する贈与登記は一般債権者の請求防止の方便として仮装の信託的譲渡担保契約に因つてなされたものである。すなわち控訴会社は昭和二九年初約八百万円に上る一般債務を負つていたもので、そのうち訴外株式会社愛媛相互銀行新居浜支店より借用せる金額は三百九十八万円余であつて、これが保証人は被控訴人(保証額金九十五万六千七百五十九円)、補助参加人八木竹夫(保証額金六十八万円)、訴外桑原基一(保証額金四十四万円)同高橋仲一(保証額金二十二万円)であつて、すなわち被控訴人の保証額は右の通り一番多かつたので控訴会社、被控訴人及び補助参加人、右訴外人らが協議の上それぞれの保証額を限度として、各保証人においてこれを一応立替払をなし、右会社に対する立替金の求償債権は右会社の出世払として棚上することとしたものである。当時控訴会社は右訴外銀行に対し本件物件につき金百十万円の根抵当権の設定をしていたところ、本件物件の価額が少くとも百八十万円であつたため、あるいは他の債権者の執行の対象となる危険性が強かつたので被控訴人の勧告により一般債権者の請求防止の方法として贈与の形式により一応所有者名義を被控訴人に切替えたに過ぎない。被控訴人は同人が右訴外銀行に対し金二百五万六千七百五十九円の代払をした旨主張するけれども金額を争う。すなわち被控訴人が控訴会社に対する金九十五万六千七百五十九円の求償債権その他売掛代金債権等あるは格別被控訴人が金百十万円を前記銀行に代払し、その代償として本件土地家屋を贈与したものではない。要するに本件物件の贈与は仮装の信託的譲渡担保契約であつて、買戻約款附売買でもなく、実体上の所有権は真実控訴会社代表者森忠市個人に属するものである。ただ控訴会社が金百十万円を出世払の方法で完済したときは何時でも、被控訴人は該物件の所有名義を右森忠市に変更する義務がある。なお被控訴人主張のように消費貸借契約が期限の到来によつて遅滞に陥つてもそれがために控訴会社が該物件に対する買戻権を喪失し、物件の所有権が実体上被控訴人に帰属するという理論はなりたたない。またもとより控訴会社はそのような契約を締結したことはない。

(五)  被控訴人は既に本件土地家屋が条件的に被控訴人のために、しかも中間省略登記により権利移転したと主張し、更にその後勝手に期限を附しおきいわゆる買戻権の喪失により権利を取得したとなして明渡を請求しようとするけれども、かくては結局甲第一号証第一項の消費貸借と同上第二項の物権提供に関する被控訴人主張の理論に矛盾することとなり、したがつて被控訴人主張のように期限の定なき消費貸借につき期限を附して履行を求め、仮りに履行遅滞ありとすれば、更に進んで仮装の信託的譲渡担保物件に対する権利をも取得しうるとせば、債権者は物件の現在評価額(時価金三百五十万円)から贈与形式を以て仮りに移転したとする当時の価額金百十万円との差額を不当に利得することとなり不当である。と補陳し、

補助参加人において

(一)  補助参加人は本件訴訟の結果につき利害関係を有するので控訴会社を補助するため該訴訟に参加する

すなわち控訴会社並に同会社代表取締役たる森忠市個人は昭和二九年三月ごろ総計八百万円に上る債務を負い、債務超過のため倒産の危機に頻した。これより先参加人は森忠市個人の資格において同人の依頼により右控訴会社が訴外株式会社愛媛相互銀行新居浜支店より借入れた右金八百万円の債務のうち金百五五十万円の返済につき債権者に対し前記森忠市と共に連帯保証債務を負担したが、控訴会社は勿論森忠市個人も全然支払不能に追い込まれ、前記債権者銀行は参加人に対し屡々保証債務の履行を催告して来たのである。

しかしながら参加人、被控訴人、並に訴外桑原基一、同高橋仲一らは主債務者たる控訴会社の債務につき前記個人たる資格における森忠市(以下同様とする)と共に何れも同様の態様により前記銀行に対し連帯保証債務を負担していたので、偶々昭和二九年四月該銀行新居浜支店の発議に応じ右全員集合し銀行側と保証債務支払に関し協議したところ何れも保証額に応じ負担することとし、次のような結論を得たのでそれぞれこれを応諾し、銀行もまたこれを承認した。すなわち

(イ)  参加人の保証に係る支払負担額は金七十万円とし、被控訴人の負担額は金九十五万六千七百円訴外桑原基一の負担額は金四十四万円、同高橋仲一の負担額は金二十二万円とする。

(ロ)  右支払負担額は保証人各自責任を以て前記銀行に立替払をなすこととし、且つ控訴会社に対する負担相当額の求償債権は右控訴会社のいわゆる出世払として棚上げすることとする。

(ハ)  右森忠市が該銀行の為金百十万円の借入金の担保として根抵当権を設定しあるその所有に係る本件不動産は森忠市の居住に委せることとした。

(二)  右の次第につき参加人は昭和二九年六月三〇日ないし同三一年七月二三日までの間前記保証による支払負担金七十万円、利息金十七万九百四十円計八十七万九百四十円を完済したのであるが、被控訴人は控訴会社が本件不動産に対し該銀行のため総額金百十万円の根抵当権を設定しあるを好機として、債務引受をしたとはいえ、被控訴人は前記の約定に則し単独で該不動産の所有権を取得すべきではない。本件のように被控訴人は贈与形式を以て一応所有権名義を被控訴人に切替えているけれども、これは控訴会社代表取締役森忠市が個人として被控訴人の勧告により他の債権者からの請求防止の方法としてなしたものであることは控訴会社法定代理人主張の通りである。

控訴会社法定代理人主張は正当であつて、参加人は控訴会社の連帯保証人として右訴訟の結果について利害関係を有するので控訴人を補助するため該訴訟に参加する。と述べた。

参加会社法定代理人の主張の要旨は

(一)  控訴人、被控訴人間の本件昭和三〇年(ネ)第三三〇号土地並に家屋明渡請求控訴事件につきその訴訟の目的物件たる原判決添付目録記載の物件の所有権は真正に被控訴人に移転せられたものではなく、依然訴外森忠市の所有に属しているものである。それ故に当事者参加人は本件訴訟の結果により権利を害せられることとなるので民事訴訟法第七一条により当事者双方を相手方として参加する。

(二)  参加の原因として、当事者参加人は昭和二九年三月二三日控訴会社代表取締役森忠市との間に控訴会社を主債務者、森忠市個人及び訴外仙波万太郎を連帯保証人として金二十万五千三百五十円の消費貸借契約を結び、又同控訴会社に対する商品代金十八万二千二十円につき同控訴会社及び森忠市個人を連帯債務者として準消費貸借を結び、右債務を同年四月から毎月十日限り金五千円宛持参支払うこと、若し違反した場合には期限の利益を失い全額一時に完済すべく且つ別に森忠市は当事者参加人に対して本件土地家屋につき抵当権を設定する旨を約した。

しかるところ控訴会社代表取締役森忠市は約旨に反して全然支払をしないので、当事者参加人は何回となく督促したところ、同人(個人たる地位も兼ねる。以下同様とする)は同年六月に至り他の債権者に対しても債務の棚上げすなわち一律に支払猶予を受け再建に没頭している旨を述べて暫時延期願い度い旨ひたすら懇請するのみで、誠意は認められず、よつて当事者参加人は債権行使のため提訴準備中のところ、図らずも右森忠市はひそかに当事者参加人の右債権の行使を妨害せんとし同人個人の唯一の財産たる本件物件の隠匿を図り、被控訴人と相通じて同二九年五月二七日該物件を被控訴人に贈与したこととして登記をなしその後多額の債務を仮装し、一方被控訴人が控訴会社の債権者愛媛相互銀行に対し負担する債務の内本件物件を担保として借用せる金百十万円の債務の引受をなしたものである。

控訴会社は事業に失敗し当時約八百万円に上る債務を負担し破産整理のほか採るべき途がなかつたが、債権者らに懇請して個人森忠市所有の本件物件をそのまま留保して専ら事業再建に専念せしめたる上、適当の時機を捉えて順次適切な解決を得るよう示談が成立し被控訴人もまたこれに参加したものであり、殊に被控訴人は同二九年四月上旬当事者参加人方に来り当事者参加人の控訴会社に対する債権の状態をききとり、これを諒知せるものである。

仄聞するところによると被控訴人は他の債権者らと協議して被控訴人のために債権銀行に対し連帯保証債務の一部を返済したもののようであるが、控訴会社の債務は棚上げとなつているにもかかわらず、森忠市個人の唯一の財産たる本件物件により優先弁済を受け一般債権者を詐害する目的で上記仮装の贈与契約をなし、よつて所有権移転登記をなしたもので、該贈与行為は無効であり、これに基いて為された所有権移転登記は抹消さるべきである。以上の次第で当事者参加人は本件訴訟の結果について権利を害せられるものというべきである。というに在る。

以上のほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

立証として被控訴代理人は甲第一、二、三号証第四号証の一、二、三第五号証を提出し、当審証人吉川元隆の証言及び当審における被控訴本人(第一、二)回の各供述を援用し、乙第一号証の一ないし四及び丙第三号証の一、二、三の各成立を認め、丙第一、二号証は各不知と答え、控訴会社法定代理人は乙第一号証の一ないし四を提出し、当審証人宮武竹市、同仙波万太郎、同高橋仲一、同桑原基一、同八木竹夫の各証言を援用し、甲第四号証の一は不知にしてその余の甲号各証及び丙号各証の成立を認めると述べ、参加会社法定代理人は丙第一、二号証、第三号証の一、二、三を提出した。

理由

(一)  控訴会社法定代理人は第一審において被控訴人主張の原判決添付目録記載の土地及び同地上の家屋はもと控訴会社の所有であつたものでこれを一種の買戻約款附で被控訴人に売渡した旨の先行自白をし被控訴人はこれを援用したのであるが、第二審において該自白を取消す旨主張するので検討するに、右自白事実は後記説示に照して真実に反するものと認められるから、控訴会社法定代理人の右陳述は錯誤に出たものと認められ、この点に関する控訴会社法定代理人の自白の取消は許さるべきである。そうして当審における被控訴本人(第一、二回)の各供述中被控訴人の右援用した事実に副うような部分があるけれども、成立に争のない甲第一号証、乙第一号証の一ないし四の各記載に対比すればたやすく措信し難く、他に被控訴人の右援用した事実を認めるに足る証拠はない。よつてこの点に関する被控訴人の主張は採用せず。

そこで被控訴人は昭和二九年五月一日被控訴人が控訴会社代表取締役森忠市との間に会社代表者兼個人の資格において、被控訴人が控訴会社の訴外株式会社愛媛相互銀行新居浜支店に対して負担する債務金百十万円を立替払することとし、控訴会社はその立替金債務の代物弁済として森忠市個人所有の前記土地家屋を同人より贈与を受けた上、これを被控訴人に対して贈与の形式で譲渡する旨を約し、右契約に基いて被控訴人は同日右控訴会社の右銀行債務を立替払し、森忠市より贈与を受けた前記土地家屋につき控訴会社より贈与の形式でこれが譲渡を受けた旨主張し、控訴人並に補助参加人及び当事者参加人はそれぞれこれを争うので検討する。当審における被控訴本人(第一、二回)の各供述中後記認定の事実を除き被控訴人の該主張に副うような部分があるけれども後記各資料に対比すればたやすく措信し難く、甲第一号証その他によるも被控訴人の該主張を肯認するには足らず、かえつて成立に争のない甲第一号証、乙第一号証の一ないし四の各記載と、当審における被控訴本人(第一、二回)の各供述の一部、当審証人高橋仲一、同桑原基一、同八木竹夫、同仙波万太郎、の各証言並に弁論の全趣旨によると、控訴会社並に同会社代表者森忠市個人は昭和二九年初約八百万円に上る一般債務を負つていたが、そのうち訴外株式会社愛媛相互銀行新居浜支店に対する債務額三口合計金百十万円につき右森忠市個人所有の本件土地家屋に対し抵当権設定契約がなされており、又右訴外銀行に対する右債務並にその他の債務につき被控訴人は補助参加人八木竹夫、訴外桑原基一、同高橋仲一らと共に保証していたこと、その後同年三月五日右訴外銀行が右土地家屋について競売申立に及んだので、競売においては右物件が前記抵当債権額以下で競落される虞があつたので、同年五月一日右森忠市は控訴会社代表者兼個人の資格において被控訴人と交渉の結果、同人との間に次のような契約を締結したこと、すなわち右契約は(1) 被控訴人は控訴会社の右訴外銀行に対する金百十万円の債務を代位弁済すること(2) 控訴会社は同日現在被控訴人に対し右代位弁済すべき金員に対する求償債務を併せて合計金二百六十四万五千八百九十七円の債務のあることを認め、期限は向後二ケ年(すなわち昭和三一年四月三〇日)利息は無利息、支払方法は控訴会社が県市町村より工事を請負つた場合は請負金額の百分の二、五五を当該官庁より代金受領と同時に被控訴人に支払うこと(3) 控訴会社及び森忠市個人は右債務支払確保のため森忠市の占有使用に係る同人所有の本件土地家屋を控訴会社に譲渡した上更にこれを被控訴人に対し譲渡担保として譲渡引渡(占有改定の方法による)をなし、森忠市から被控訴人名義に所有権移転登記をすること(4) 同時にまた被控訴人は右土地家屋を二ケ年間控訴会社に対し使用料一ケ月金一万五千円と定めて貸与すること(3) 控訴会社は右土地家屋に関して生ずるすべての諸経費を負担すること(6) 控訴会社が右(2) の債務を完済したときは被控訴人は右土地家屋を有姿の侭で控訴会社へ返還すること(7) 控訴会社は若し契約不履行の場合は期限の利益を失い直ちに如何なる処置を受けるも異議の申立をなさないことの条項を含むものであること、右契約に基き即日控訴会社は右(2) の債務支払の保証として森忠市より譲渡引渡を受けた上、右土地家屋を被控訴人に対して譲渡担保として譲渡引渡(占有改定の方法による)をなすと同時に更めて被控訴人よりこれが貸与を受け爾来現在に至るまで自らこれを占有使用していること、同年同月一三日ごろ被控訴人は控訴会社の前示銀行に対する百十万円の債務を代位弁済し、よつて控訴会社に対して同額の求償債権を有するに至つたこと、同年九月八日右土地家屋につき森忠市より直接被控訴人名義に同年五月二七日附贈与を原因として所有権移転登記がなされたこと、そうしてその後右競売申立は取下げられたことが認められ、これを覆すに足る証拠はないい。

この点に関し控訴人及び補助参加人は被控訴人主張の本件土地家屋に関する贈与形式による所有権移転並に賃貸借契約は一般債権者(第三者)の請求防止のための措置として為された仮装のものであつて、しかも被控訴人の強迫に因る無効のものである旨主張し、又当事者参加人は本件土地家屋は森忠市の唯一の財産であつて、右物件に関する前記処分行為は森忠市と被控訴人とが相通じて当事者参加人を含む一般債権者を詐害する目的でなされた仮装のものであるから無効であり、これに基いてなされた所有権移転登記は抹消さるべきである。よつて右物件は依然として森忠市の所有に属するものである旨主張し、当審証人宮武竹市の証言中右各主張に副うような部分があるけれども前掲各資料に対比すればたやすく措信し難く、他に該主張を認めるに足る証拠はない。よつて控訴人、補助参加人及当事者参加人らの右主張はいずれも採用せず。

そこで前記認定によれば、被控訴人は控訴会社並に森忠市個人との間に昭和二九年五月一日控訴会社の前記訴外銀行に対する債務合計金百十万円を代位弁済することを約し、そうして右代位弁済によつて取得する同額の求償債権をも併せて前記二百六十四万五千八百九十七円の債権確保のため、森忠市よりこれが所有権の譲渡を受けた控訴会社より本件土地家屋を譲渡担保として譲受けた上、再びこれを控訴会社に対し使用料一ケ月金一万五千円、期間は同三一年四月三〇日までと定めて貸与したものというべきである。そうして右認定事実その他によるも右物件の所有権留保の点につき当事者の意思必ずしも明白とはいえないから、右契約の際右物件の所有権は前記期限内に右債務を支払うことを解除条件として控訴会社から被控訴人に移転したものと認めるのが相当である。よつて被控訴人の主張のうち右認定を超える部分は採用し難い。この点に関し控訴人及び補助参加人は控訴会社が金百十万円を出世払の方法で完済したときは何時でも被控訴人は本件土地家屋の所有名義を森忠市に変更する義務がある旨主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はないから該主張は採用せず。

次に被控訴人は仮りに本件土地家屋に関する契約が譲渡担保であるとしても、内外部共にその所有権は被控訴人に移転しているのであるから、右所有権を前提とする前記賃貸借契約は有効である。そうして控訴会社は昭和二九年九月分以降前記所約の賃料の支払をしないから、被控訴人は控訴会社に対し同三〇年一月二六日控訴会社に到達せる書面で右延滞賃料を五日内に支払うべく若し同期間内にその支払をしないときは前記賃貸借を解除する旨催告した。しかるに控訴会社は右期間を徒過してその支払をしないから、右賃貸借は解除せられ、控訴会社は被控訴人に対して本件土地家屋の明渡義務がある旨主張するので検討する。

元来不動産の譲渡担保契約において内外部共にその所有権を債務者から債権者に移転し、同時に現実の引渡を受けないで債権者から債務者に対して期間を定めてこれを賃貸する場合には、もとよりその賃貸借契約はこれを有効視すべきであるけれども、特段の事情のない限りは通常その期間内は債務者をして該目的不動産を現実に占有せしめてこれが使用を許し、唯物件の換価価値のみを目当として担保権を設定する趣旨であつて、定められた賃料のごときは実質的には債権に対する利息に相当するものと解すべきである。それ故に特段の事情のない限りは単に右賃料の不払を理由としては賃貸借契約を解除し得ないものと解するを相当とする。よつて特段の事情も認められない本件においては右所約の賃料不払のみを理由とする被控訴人の賃貸借解除の意思表示はその効力を生じたものとは認められない。よつてこの点に関する被控訴人の主張は採用せず。

(二)  次に被控訴人は昭和三〇年二月三日を以て控訴会社の前記債務の履行期が到来し且つ本件土地家屋買戻の権利は消滅した旨主張するけれども、前認定の本件土地家屋につき締結せられた譲渡担保契約の趣旨から判断すると特段の事情も認められない本件においては前記債務の履行期たる昭和三一年四月三〇日より以前において控訴会社が右物件の所有権を回復する権利を喪失したものとは認められない。

しかれども右債務の履行期限までに控訴会社又は森忠市より被控訴人に対して前記債務を完済したとの点については控訴人らにおいて主張立証もしないところであるから、右債務の完済はされなかつたものと認めるのほかないい。それ故に債務完済という条件(解除条件)は成就しなかつたものというべきであるから、本件土地家屋の所有権は前示債権担保の目的を以て依然として被控訴人に帰属しているものというべきである。

そうして不動産の譲渡担保契約において特約(いわゆる流質的特約)がなければ、債務不履行に当つて債権者は代物弁済として完全にその目的物の所有権を取得し、債務者はこれが返還請求権を喪失するものというべきでないと解せられている。(大正一〇、五、三〇大審院判決、昭和六、四、二四同上参照)そこで本件についてこれを見るにいわゆる流質的特約の存することは、何れの当事者よりも主張立証されないところであるから、そのような特約が存するものとは認められない。そこでそのような場合には債権者において特段の事情のない限りは譲渡担保権の実行として該目的物件を任意に処分(売却又は評価取得)して、その売得金又は評価額を元利金に充当し、残額があればこれを債務者に返還することを要すると共に、不足額があれば、これを債務者に請求することができ、しかも右任意処分のために債務者より不動産の明渡を求めうるものと解するを相当とする。何となれば不動産は明渡の有無によつて処分の難易並に処分価額の甚しい高低があることは公知の事実であるから、処分を容易ならしめるために債権者は不動産の明渡を請求しうるものと解せられる。本件についてこれをみるに何ら特段の事情も認められないから債権者たる被控訴人は担保権の実行として本件土地家屋を任意に処分して前記債務の支払に充当するため控訴会社に対して右物件の明渡を求めうることは前叙に照して明かである。控訴人及び補助参加人は仮りに被控訴人が右物件の明渡を請求しうるものとすれば、債権者たる被控訴人は右物件の現在の時価金三百五十万円と贈与形式を以て仮りに移転した当時の価額金百十万円との差額金を不当に利得したことになるので、失当である旨主張するけれども、該物作を売却処分してその売得金を以て基本債務と清算して余剰を生ずればこれを債務者に返還すべきものであること前叙の通りであるから、この点に関する控訴人及び補助参加人の主張は採用せず。

叙上説示によつて控訴人は被控訴人に対し本件土地及び家屋を明渡す義務があり被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。よつて理由は異るけれども結局右と同一結論に出た原判決は正当にして本件控訴は理由なくこれを棄却することとし、又本件土地家屋に関する被控訴人主張の贈与行為が他の債権者の債権を害する目的でなされた仮装無効のものであるとの事実を前提とする当事者参加人の本訴請求はその前提において認められないからら、その余の点の判断をまつまでもなく到底失当として棄却を免れない。よつて民事訴訟法第三八四条第八九条第九五条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

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